独立後に前会社の従業員・顧客を引き抜きできる?

独立後に前会社の従業員・顧客を引き抜きできる?

今回は独立後の引き抜き行為について挙げてみたいと思います。

独立後は当面は固定客もおらず売上が安定しない事が通常です。それであれば独立前に勤めて

いた会社やお店の顧客・常連客をそのまま引き抜いてしまいたい、と考える経営者もいる事

でしょう。もしくは人手不足が叫ばれる現在では、新規で求人を出して一から人を育てていく

よりも、前会社の従業員を引き抜いた方が効率的と考える経営者もいるかもしれません。

それでは前の会社の顧客や従業員を引き抜いても問題にはならないのでしょうか。

今回は前会社からの引き抜きについて触れてみます。

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引き抜きされた会社の影響

半年ほど前になりますが、以前にお世話になった保険会社の担当者から電話にて連絡が

ありました。「この度独立をしたのでご挨拶に…」との事。話を聞いていると、恐らく自分で

立ち上げた会社に契約を移行して欲しいといった内容だったのでしょう。私としては

どの保険代理店と契約をしても契約内容にはさほど変化はありませんので、代理店を変更

する事には特に問題はありませんでしたが、念のため現契約の保険会社担当にも連絡すると、

「当人には厳重に対処しておきます」との事。やはり独立後であっても前の会社からして

みれば、顧客や従業員を引き抜かれる事は、面白いはずがありません。

顧客情報や顧客リストを持ち出しされれば売上・利益は落ちていきますし、その後の事業

活動にも支障が出ます。また従業員を引き抜かれれば運営がスムーズに廻らなくなる

恐れもあり、ましてリーダー格の人材等を引き抜かれた際には、その周囲の従業員さえ

持って行かれる可能性も出てきます。このような前会社からの顧客や従業員の引き出しに

違法性はあるのでしょうか。

従業員を引き抜きする場合

前の会社から従業員を引き抜きするケースです。

まず初めに考慮しておきたいのは労働者側には退職・転職の自由職業選択の自由がある

という事は理解しておかなければなりません。また例え前会社であっても、退職後にどのような

行動を取るかまでは拘束する事はできないというのが原則的な考え方になります。

ただし一方で、前の会社に在職中の時は会社の為に忠実に業務を遂行する忠実義務がありますし、

競業避止義務もあるので会社の業務と競合する業務を行う事は基本的にはできません。

退職後にはどのような行動を取るかは原則自由ではありますが、例えば前の会社と

引き抜き等に関する誓約書を交わしている場合には、やはり違法行為にあたる可能性が

出てきますし、ケースに応じて引き抜きによって受けた損害に対し賠償請求をされる恐れも

出てくるでしょう。

ではどのような引き抜きがOKでどれがNGかという線引きには、実際には明確な定義はなく、

引き抜かれた人数や従業員の地位・前会社に与えた影響・引き抜き方法や経緯・その違法性

などを総合的に勘案して決められます。例えば前従業員をどこかに場所を指定して呼び出し、

会社説明を行う等して、何時間も説得をした上で引き抜きをしたような場合には、その引き抜きは

計画的かつ背信的な勧誘行為として違法性を問われる可能性が高くなるかもしれません。

また前会社に事前に話を通しておいたり、引き抜き時に商品や金銭の提供があったかどうか

といった要素も関係してくるでしょう。

退職後は前会社との雇用契約もない為、行動自体は自由ではありますが、過度な行為や引き抜きに

ついては違法性を問われる可能性が出てくるので注意が必要です。

顧客を引き抜きする場合

それでは顧客を引き抜かれた場合はどうでしょうか。前会社から顧客リストを持ち出されたり

顧客情報の入ったメモリを持ち出される・直接的に顧客に合って引き抜きする等、様々な行為

が考えられます。また前会社とすれば「退職後○ヵ月は顧客との取引を禁止」といったように、

あらかじめ就業規則の競業禁止条項等において、顧客との取引や引き抜き行為を禁止する条項を

定めている所も多いかと思います。

ですが就業規則で定めていても必ずしもその義務を負うとまでは言い切れず、これも

上記の従業員引き抜きと同様に総合的な要素を元に判断され、禁止されている業務の範囲や

競業避止の合理性・競業制限の目的・地域や期間の限定の内容・代償の有無によっても

異なりますし、またその人物が担当した顧客だけでなく、そうでない顧客に対しても禁止条項を

定めていたかどうか等によっても判断は変わってきます。またそもそも就業規則で定められて

いても実際には就業規則が従業員に向けて周知されているケースというのは意外と少なく、

規則自体が周知されていたかどうかという実態も問われる可能性があるでしょう。

併せて退職時などに誓約書等に署名サインをしていたかどうか等も重要な判断要素になる

かと思われます。また顧客そのものではなく、例えばUSBメモリや顧客資料などを勝手に

会社から持ち出されたとなれば、別件として窃盗罪等の罪にあたる可能性も出てきますので、

くれぐれも独断での判断や行動は慎むようにし、専門家等に相談をするようにしたい所です。

今回は独立後に顧客や従業員を引き抜きするケースについて挙げてみました。

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